過去20年あまりの間、世界経済が危機に直面する場面では中国が世界経済の成長ドライバーとなり、景気後退を緩和するとともに早期の景気回復に貢献してきた。しかし、足元の中国経済の回復は過去のような力強さを欠いており、世界的な景気後退に対する懸念が燻る中、世界経済は牽引役不在の状況となっている。本レポートでは、こうした中国の低調な経済回復が世界経済に及ぼす影響について検証する。
<要旨>
- 中国の従来の景気刺激策は投資主導型(特に民間不動産セクターが中心)であり、世界経済に対しても大きな波及効果をもたらした。しかし、今般の中国の経済回復は過去とは全く異なっており、投資主導型の成長モデルの効力が薄れていることに加え、コロナ禍からの経済再開に関連した輸出の急拡大も終わりを迎えている。
- こうした中、消費主導型の成長モデルへの転換がより重要になるが、足元で中国の小売売上高の回復は失速しており、コロナ禍前のトレンドを大幅に下回る状況にある。中国ではコロナ禍の期間に、欧米のような家計部門への大規模な財政支援がなかったため、消費の回復力は弱い。
- 同時に、中国のコモディティ需要や欧州との貿易活動も、従来の景気回復局面に比べて弱い動きとなっている。消費の回復により原油や食料品価格が押し上げられる可能性はある一方、不動産投資は減退すると予想される。中国当局は2020年に不動産セクターを対象とした「3つのレッドライン」政策を実施し、過剰なレバレッジに対する監視を強めた。これが不動産セクターへの大きな打撃となった。こうした中で住宅着工件数は激減しており、投資家の懸念も高まっている。
- 不動産不況に対応するために、中国当局は「3つのレッドライン」政策を緩和する方針を示したが、その効果は一時的で、既に不動産需要は減退し始めている。また、若年層の失業率は20%を超える歴史的な高水準にあり、中国の不動産市場にとってプラス要因になる可能性は低い。
- 中国が過去と同様の政策を実施しない理由として、こうした政策に伴うリスクが以前よりも高まっていることに加え、政策効果も薄れていることが挙げられる。中国政府の債務残高は対GDP比で約300%となっており、平均金利が約5%であることを踏まえると年間利払い費はGDPの約15%に相当するが、これに対して名目GDP成長率は足元では6~8%で推移している。こうした状況から、中国では利下げが必要だとPGIMフィクスト・インカムは見ている。利下げによって、中国人民元は更に下落する可能性があると同時に、輸出競争力は改善することになる。
- 中国政府は、経済成長と雇用が容認できない水準まで悪化するリスクを踏まえ、今後数ヵ月間に追加の財政刺激策を実施するとの考えから、2023年の中国のGDP成長率は市場コンセンサスを上回る5.7%になるとPGIMフィクスト・インカムは予想している。但し、過剰な生産能力と急速な人口高齢化を背景に、中国の中長期的な成長力は鈍化しており、2024年のGDP成長率は4.5%、今後5年間の経済成長率は潜在成長率並みの4%弱、今後10年間では潜在成長率が3%未満まで低下すると予想している。
- 米中間の緊張の高まりにも注視が必要である。南シナ海情勢に見られるように、米中間の緊張は当面継続すると予想される。こうした地政学的な緊張を背景に、中国と多くの先進国との間でテクノロジー分野での分断が進んでいることによって中国経済が孤立し、経済成長に影響が及ぶ可能性がある。
- 投資の観点からは、中国のソブリン債と準ソブリン債は割高だとPGIMフィクスト・インカムは考えている。クレジット・セクターについては、多くの分析が必要ではあるが、非常に慎重な投資スタンスを取っている。また、中国人民元は更に下落する可能性があるため、小幅なアンダーウェイトを維持している。
- 世界的な景気後退への懸念が高まってはいるが、上述の通り中国は以前のように世界経済を下支えする成長エンジンとはなり得ないと考えられる。但し、PGIMフィクスト・インカムでは、ニアショアリングによって中国製品に対する需要が激減するとは考えていない。中国の「世界の工場」としての地位は簡単に揺らぐことはなく、米国などが輸入先をベトナムやメキシコに変更するとしても、こうした国向けの中国からの輸出が増加すると見ている。また、中国人民元が世界の基軸通貨になるシナリオも想定していない。中国の資本勘定は厳格に管理されており、「自由な取引」が必要とされる基軸通貨の要件を満たしていない。
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