<背景および経緯>
- UBSはクレディ・スイスを株式交換によって買収すると発表した。これによって、預かり資産5兆米ドル超の金融機関が誕生し、スイス国立銀行による流動性支援、およびスイス政府による一部の将来損失補償などが提供される。
- 買収においてクレディ・スイスの株式価値が約30億スイスフランとされた一方、スイス金融市場監督機関(FINMA)は、同社が発行する約160億スイスフランのAT1債を無価値とした。これは、市場関係者や投資家にとってはサプライズとなった。
- クレディ・スイスAT1債の無価値化は、約2,750億米ドル規模とされる欧州銀行AT1債市場全体に影を落とし、投資家は従来よりも高いリスクプレミアムを要求し始める可能性が高い。
- これに対して、EU銀行規制当局(ECB銀行監督局、破綻処理理事会、欧州銀行機構)は、銀行の再生・破綻処理においては普通株式が最初に損失を吸収すべきとし、スイス金融市場監督機関とは異なる見解を公表した。
<市場の見方と影響>
- UBSによる買収によって、クレディ・スイスの持株会社シニア債および事業会社シニア債はそれぞれUBSの持株会社シニア債および事業会社シニア債となり、現状よりも高格付となる見通しである。
- 今回の買収は、スイス政府および金融当局による様々な救済策を伴っており、クレディ・スイスの経営不安が他の銀行に波及するリスクを内包していた金融市場に大きな安心感を与えることとなった。
- 買収に際しては、スイスおよび各国の金融当局による承認などが条件となるために最大6ヵ月を要すると見られているとは言え、金融システムにおける重要性を考慮すれば、PGIMフィクスト・インカムでは買収は成立する可能性が高いと考えている。また、当買収はクレディ・スイスの債権者、預金者、および取引カウンターパーティにとって重要な救済となったことに加え、UBSの株式投資家および債券投資家にも潜在的に恩恵をもたらすと考えている。
- UBSは、約30億スイスフランの株式交換によって、普通株式ティア1資本(CET1資本)382億米ドルの金融機関を買収することとなる。PGIMフィクスト・インカムでは、2022年末の14.2%だった同社のCET1資本比率は、クレディ・スイス買収によって17%程度まで上昇すると推定している。従って、UBSにはクレディ・スイスのコスト削減、訴訟、投資銀行事業縮小などに関連する追加費用を吸収するのに充分な資本余力が生まれると考えている。
- また、今回のUBSによるクレディ・スイス買収が欧州の銀行セクターに及ぼす影響として、以下が挙げられる。
- スイス政府並びに各国の金融当局および中央銀行の関与によって、金融システム上重要な金融機関の崩壊を回避したことは評価に値する。
- 普通株式に価値上昇余地を残す一方でAT1債を無価値とする優先劣後構造を軽視した措置は、今後のAT1債および劣後債市場に影を落とし、多くの銀行のこれら債券のリファイナンスに悪影響を及ぼす可能性がある。EU銀行規制当局は、銀行の再生・破綻処理に際しては普通株式が最初に損失を吸収すべきという見解を公表しているものの、市場の不安は払拭されない可能性がある。
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