現在のEUの危機は、分裂ではなく団結を促す
2020年5月12日
欧州の各国政府は、コロ ナウイルスの流行終息後の V 字回復に向け必要とされるあらゆる手段を講じるであろう。欧州では政治的な摩擦があっても、それだけで EU が分裂することはないだろう。逆に、今回のパンデミックが、EU の制度強化を助長したものと して歴史的に認識されることになる可能性が高い。
現在のEUの危機は、分裂ではなく団結を促す
新型コロナウイルス流行に起因する甚大な経済的損害に対するEU 加盟各国の対応は、力強さと統一性に欠けており、改めてEU 分裂の懸念が再燃している。しかしながら、足元の危機に対して「必要なことは何でもやる」というEU加盟国による協約が、今後も各国における対応策の基本理念となると我々は考えている。欧州の各国政府および欧州機関は、欧州経済を下支えし、欧州周辺国の利回りを支え、コロナウイルスの流行終息後のV 字回復に向け必要とされるあらゆる手段を講じるであろう。欧州中央銀行(ECB)は、必要に応じて資産購入プログラムの規模を拡大し、購入期間を延長すると我々は考えている。また、欧州各国政府は、経済成長に対するさらなるリスクを回避すべく、引き続き積極的な経済促進策を維持するであろう。
今後何年にもわたって、欧州における政治的な摩擦が消え去ることはないであろうが、政治的不和だけでEU が分裂することはないだろう。逆に、今回の新型コロナウイルス禍は、EU の制度強化を助長したものとして歴史的に認識されることになる可能性が高い。世界あるいは各地域における既存および新興の大国が、ますます物事の方向性を決するような世界において、このような国々と対等な関係を維持するためにはEU は遺棄されるべきではなく、むしろ強く団結すべきであるということを欧州各国は認識している。
過去 10 年にわたって欧州は、ギリシャ政権交代による国家財政の粉飾決算の暴露に端を発した欧州債務 危機、2015 年の欧州移民危機、英国の EU 離脱問題、そして足元の新型コロナウイルス禍など、EU 分裂 の懸念を引き起こすような幾つもの危機を経験した。それぞれの危機を通じて様々な脆弱性が露呈し、これ に対して EU 加盟国や欧州機関が対応してきた。
欧州債務危機は、ギリシャにおいて反緊縮を掲げて第一党となった急 進左派連合(SYRIZA)に代表されるように、ポピュリズムの高まりを引き 起こした。また、EU の予算および債務の枠組みに加えて、銀行セクター における改革の必要性を浮き彫りにした。欧州移民問題は、特に東西 欧州間の政治的分裂といった深刻な政治的摩擦を引き起こした。これ によって、反移民政策を唱える極右政党が台頭し、欧州における基本 的な価値観への脅威となっただけでなく、既存政党にも大きな打撃を 与えた。移民問題を巡って、イタリアとドイツにおいて連立政権が崩壊し たことが、その好例であろう。 英国の EU 離脱に関する国民投票によって、うまく統制されなければ EUを分裂させるようなプロセスが始動してしまう危険性が欧州には存在 しているということが明らかになった。足元では、深刻さを増す経済危機 に向けた欧州の団結力および協調性が、新型コロナウイルス禍によって 試されている。 こうした一連の危機を考えれば、EU 分裂論が依然として一部の市場 参加者の間で支配的となっているのは理解できる。しかし、EU の各国 政府や欧州機関は、それぞれの危機がもたらすマイナスの影響を回避 するために断固とした対応を行ってきた。その過程において、最終的に欧 州は EU の制度強化という共通の目標に幾度となく立ち戻ることができ ること、将来の危機についても対応能力があるということを市場は再認 識した。 欧州債務危機を受け、EU は財政および債務に関するルールの遵守を 促すため、財政赤字と債務を監視する厳格な枠組み(ペナルティを含 む)を採用した。また、ECB と協調し、EU は金融市場に下押し圧力が かかる中で EU 加盟国の金融安定化を下支えするために、EU は欧州 安定メカニズム(ESM)とアウトライト・ マネタリー・トランザクション (OMT) を導入した。EU はまた、加盟国共通の預金保険の必要性について積 極的に議論するなど、銀行セクターにおける改革に関しても大きな進展 を遂げた。その一方で、経済成長に対する懸念の払拭とソブリン金利の 下支えを目的として、ECB は幾つかの融資および資産購入プログラム (量的緩和政策)を開始した。 2015 年の欧州移民危機によって、欧州各国が移民政策について異 なるビジョンを持っていることが浮き彫りになったが、それが長期的に影響 を及ぼすことはなかった。2019 年の欧州議会選挙において、反移民を 唱える政党 はイタリアの「同盟」を除いて予想以上に苦戦し、前回の議 会選挙よりも議席を減らした。依然として移民問題に関する欧州各国 の見解は割れたままであるが、もはや移民問題は欧州における有権者 の主要テーマではなく、EU の将来に対する脅威とはなっていない。 同様に、英国の EU 離脱は、多くの人々が懸念していたような合意なき 離脱が回避され、最終的には欧州単一市場を守るという EU の決意の 強化につながった。昨年 10 月に合意に至った英国の EU 離脱に向けた交渉の期間にわたって、常に譲歩したのは英国側であった。英国とっ ては残念なことに、EU は揺るぎない団結を堅持した。 当初は欧州諸国における団結の欠如が懸念されていたにもかかわらず、 新型コロナウイルス流行に対しては EU レベルで迅速な対応が行われて いる。初期段階において、欧州委員会は EU 条約の「例外的な状況」 に関する条項を発動し、財政規則の遵守を留保した。これにより、EU 各国が自国経済に及ぶ影響に対処するために必要とされる支出を事 実上認めた。欧州委員会はまた、ウィルスの影響が最も甚大な国の保 健医療システムを支援するための予算財源を公表した。ECB は、前例 のないパンデミック緊急購入プログラム(PEPP)を導入し、7,500 億ユー ロの資産購入を行うことを決定した。これは、欧州債務危機が最も深 刻だった際の毎月購入額を上回るものである。一方、4 月 23 日には、 資金を必要とする国に対し信用枠を提供し、企業に対しては一定の保 証を与え、失業保険プログラムに資金提供を行うという内容の 5,400 億ユーロの経済対策が EU 理事会によって承認された。最も重要なの は、新型コロナウイルス流行が及ぼす影響から経済が回復するのを支 援するため、「何兆ユーロ」もの資金から成る復興基金を設立することに、 EU 各国の首脳が基本合意したということである。 ドイツ連邦憲法裁判所(GCC)は 5 月 5 日、「足元のコロナウイルス危 機に関連して EU および ECB が講じた金融支援策について特段の懸 念はない」との判断を下したものの、それでも資産購入プログラムが適法 であることの根拠を ECB が「3 カ月以内」に示すことが出来ない場合に は、現行の量的緩和プログラム(PSPP)におけるドイツ国債購入の阻害 要因となるだろう。確かにこれは、ECB および EU の各国政府に投げか けられた新たな課題だと言える。しかしながら、本件の実質的な影響は、 報道内容ほど懸念されるようなものではないと我々は考えている。特に PEPP に関して言えば、購入実施期間が最終的に 2021 年初めまで 延長されたとしても、本質的には期間限定的な対応策である。また、 ECB による資産購入が脅威に晒されることで、EU 各国政府の財政面 でのさらなる取組み意欲が高まる可能性も否定できない。 予想に反して、足元の危機は、特にドイツにおいて与党政権を後押しし ている。世論調査によれば、今回の危機が発生して以来、EU 懐疑政 党や反移民政党は支持を集めていないことが明らかになっている。ドイツ において AfD の支持が減少していることが好例であろう。しかし、イタリア では、同国における新型コロナウイルス流行に対する EU レベルの初期 支援が十分でなかったことにより、EU 加盟への支持が低下している。し かし、今年末あるいは 2021年初めに復興基金の運用が開始され、現 在実施されている金融政策の影響がイタリア全土で感じられるようにな れば、同国の EU 加盟に対する足元の支持率の低下は回復に向かう 可能性が高いと我々は考えている。また、イタリアの法的制度は極めて 欧州統一主義的なものであり、EU 加盟の是非を問う国民投票実施 に向けた法的手段を有していない。
欧州の団結が、多くの欧州周辺国債券にとってプラス材料に
最終的には、ソブリン債発行体である欧州各国の財務状況は、各国の 信用力にまで影響を与える。欧州通貨単位(ECU)が開始された際に 名目上求められていた(ただし、概して条件を満たす国はなかった)当 時のマーストリヒト基準を達成してはいないものの、加盟国は 2012 年 の欧州債務危機以降、財政赤字を大幅に削減している。幾つかの国 は痛みを伴う構造改革を実施して経済成長を押し上げてきたが、中に はギリシャ、キプロス、ポルトガル、アイルランドのように、財政黒字を計上 している国もある。こうした国々の信用格付の安定あるいは改善には、 経常黒字の計上だけで十分だろうか。現時点では断言できないが、EU 加盟国が信用格付を改善するべく最善の努力を続ける限り、2 つの要 素が欧州ソブリン債にとってプラス材料となる。すなわち、予算に関する 規則を遵守するために EU は団結すべきであるという圧力と、信用市場 における ECB からの強固な支援である。これらの要素が組み合わさって、 少なくとも短中期的には、欧州周辺国が債券ポートフォリオにおける有 効な投資テーマとなる可能性が高い。
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