シリコンバレー銀行(SVB)の経営破綻をきっかけとして、世界的に金融不安が高まっている。これを取り巻く状況は引き続き流動的ではあるものの、米連邦準備制度理事会(FRB)の政策運営から地政学に至るまで、現時点で想定され得る影響について考察する。
- 今回のSVB経営破綻を巡り、政策当局は同行のリスク管理に固有の問題があったとする一方で、この脆弱性は業界共通と判断したと考えられる。米国の銀行セクターが保有する有価証券の含み損は、昨年末時点で6,000億米ドルを大きく上回る水準に達していた。また、米国銀行の負債総額に占める預金額の割合は、中小の銀行を中心に増加傾向にあった。しかし、無リスク資産から高い利回りを享受出来るようになったことを背景に、過去3四半期は預金が流出に転じている。なお、2022年末時点で米国の銀行システムにおける預金総額の半分程度(約10兆米ドル)は、米国連邦預金公社(FDIC)による付保がない状況にあった。
- すなわち、多くの個人や中小企業の預金が危険に晒されていたことになる。世界金融危機からも明らかなように、金融システムの混乱を回避するためには、不条理ながらもこうした無保険預金も保護せざるを得ない。こうした中、当局がSVB破綻は米国の金融システム全体に対するリスクであると明言し、FDICがSVBとシグネチャー銀行の預金を全額保護することになった。また、FRBは「システミックリスク上の例外措置」を宣言し、米国国債やMBSを担保に融資を行う銀行タームファンディングプログラム(BTFP)を導入した。当プログラムは、担保を時価にかかわらず額面100として評価するもので、暗黙の資本注入に等しい。
- 但し、FDICは全ての無保険預金者を保証した訳ではなく、また同プログラムを活用する銀行には風評リスクの可能性もあることから、今回導入された施策だけで十分かどうかは不透明である。2020年には、FRBはこうした風評リスクを軽減するために、健全かつ支払い能力のある銀行に対して同様のプログラムの活用を促すとともに開示を遅らせることを推奨した。今回も同様の対応が取れられる可能性がある。
- また、信用供与の動向にも注視する必要がある。小規模な金融機関は、預金残高に対する融資額の割合が大手行よりも20%程度高く、米国の融資全体に占める割合は約40%を占める。預金者がリスク回避のために大手銀行へと預金を移動させた場合、健全な地方銀行にも悪影響が及び、経済成長にとって大きな足枷となる可能性がある。また、金利上昇とそれに伴う多額の含み損を抱える欧州などにおいて、米国と同程度の措置が講じられないようであれば、銀行セクターのストレスから負の波及効果が生じ得る。
こうした状況の中、現時点でSVB破綻によって以下の影響が想定され得るとPGIMフィクスト・インカムは考えている。
- FRBの政策運営:以下3つの理由により、FRBは3月の連邦公開市場委員会(FOMC)で25bpsの利上げを実施し、今般の利上げサイクルを終了すると見られる。
- SVB破綻は、欧州への波及の兆候も見られ始めており、短期間で終結する可能性は低い。金融環境の引き締まりは、少なくとも金融引締めの一部代替的役割を果たし、労働市場のモメンタムが鈍化し、サービスインフレ率も低下する可能性がある。
- 米国議会は全ての預金者を全額保護することに抵抗感を示す可能性がある。これによって、FRBは、マクロ経済を管理するために、金利政策を厳密に活用する余地が狭まる可能性がある。
- 足元では、金融引締めが過度となるリスクが、不十分になるリスクを上回る状況に変化したことは間違いないだろう。このため、FRBは3月のFOMCを最後に、利上げを一旦停止すると考えられる。その後の政策運営は金融情勢に左右されることが想定され、FRBは当面政策金利を据え置いた後、年後半に50~75bpsの利下げを実施する可能性がある。
- 規制:SVB破綻は、同行のリスク管理の不備が原因であるのと同時に、金融規制と監督体制が不十分であったことも要因として挙げられる。中堅銀行に対するドッド・フランク法の規制が2018年以降に緩和されたことから、「大きすぎて潰せない」状況が「小さすぎて見えない」状況へと変化した。今回のSVB破綻を受けて、地方銀行には、より高い資本・流動性基準、より厳しいストレステスト、不祥事等に伴い役員報酬を回収するクローバック制度が課せられると予想される。今後は中小銀行の淘汰が進む一方で大手銀行は肥大化すると見られ、地方銀行に対する救済措置の意図せぬ副産物として「大きすぎて潰せない」状況が復活していないか、政策当局は改めて確認する必要がある。
- 制度的な信頼性:上述の預金の全額保護は正しい判断だったが、それには代償も伴う。銀行システム全体の危機を回避するために、状況に応じたルール変更は必要だったかもしれないが、これによって世界金融危機後に築かれた制度の信頼性が損なわれる可能性がある。
- 地政学:グローバルにリーダーシップを巡る競争が激化する中、今回のSVB破綻によって、米国が対外的な主導権を維持するためには国内の脆弱さに対処する必要性があることが改めて示された。今後数ヵ月以内のうちに債務上限問題に適切な対応ができないことによってもたらされ得る影響について、政府高官は再認識したと期待したい。
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