ロシア産ガスの供給が減少する中、欧州はどのように対応しているか?
欧州は短期間で天然ガスの供給元を大幅に多様化させており、とりわけ液化天然ガス(LNG)の輸入量を急増させている。但し、LNGは世界的にも供給上の制約があることから、これが持続可能な解決策になるとは考えにくい。現時点で欧州の天然ガス貯蔵量は目標の80%に達しているとは言え、今冬の総需要量を満たす水準からは依然として程遠い。
LNGの輸入に課題がある中、エネルギーの長期安定供給のために欧州にはどのような代替手段があるか?
再生可能エネルギーへの転換が有力な解決策となるが、これが天然ガスを代替するまでには長い年月が必要とされる。また、欧州が掲げる温室効果ガス排出量ネット・ゼロの目標には逆行するものの、石油/石炭の継続使用や原子力発電所の閉鎖期限延長も代替手段となる。概して、今後のエネルギー転換は、ロシア産エネルギー依存からの脱却計画である「リパワーEU」に基づいた財政パッケージによって賄われる必要がある。
エネルギーの供給不足は、欧州および世界経済にどのような影響を与えるか?
欧州では、エネルギーの供給不足がインフレ高騰の主要因となっている。今後、産業用ガスの配給制度が導入された場合には工業生産が低迷する他、インフレ高騰に伴う実質所得の低下を背景とした個人消費の減退も見込まれ、個人や企業の景況感悪化がGDP成長率を更に押し下げると考えられる。PGIMフィクスト・インカムでは2023年のユーロ圏のGDP成長率をマイナス1.4%と予想している。欧州ではエネルギー価格の上限設定が検討されているが、これはエネルギー転換を阻害するものであり、エネルギー不足の問題を根本的に解決するものではない。また、EUの景気後退に伴って同地域と経済的な繋がりの深い北アフリカや東欧諸国の輸出が減速するだろう。また、ユーロ安を通じた米ドル需要の高まりが、新興国にとって痛手となり得る。一方、エネルギーの代替調達先が模索される中で、アルジェリアやアゼルバイジャンなど一部の新興国の重要性が増す可能性がある。
エネルギー危機は欧州経済にどの程度深刻な影響を与えるか?
ロシア・ウクライナ紛争の開始前には、ユーロ圏のGDPは2023年末までにコロナ禍前の水準を5%程度上回ると予想していたが、現時点ではコロナ禍前の水準への回帰に留まると予想している。よって、エネルギー危機によってユーロ圏のGDPは5%程度押し下げられると考えられる。
欧州金融市場にはどのような影響があるか?
エネルギー不足を背景に、PGIMフィクスト・インカムでは欧州のインフレ率を2022年末は8.4%、2023年末は2.8%になると予想している。こうした高インフレに対処するために欧州中央銀行(ECB)は年末までに政策金利を1.5%まで引き上げ、その後はPGIMフィクスト・インカムが考える中立金利の上限である2.0%をやや上回る水準でピークを打つと考えられる。こうした厳しい経済見通しは既に市場に織り込まれており、年初来でユーロ・ストックス50指数は20%下落、ユーロは対米ドルで13%下落、欧州投資適格債とハイイールド債のスプレッドはそれぞれ108bpsと244bps拡大している。今後の見通しを巡る不確実性は高く、冬場の天候とロシア・ウクライナ紛争の動向に大きく左右されるであろう。
マージン・コールの増加や流動性の低下は、欧州銀行セクターにどのような影響を及ぼすか?
欧州では、エネルギー価格の高騰を背景に、電力会社を中心に行うヘッジ取引を巡って大規模なマージン・コールが発生している。欧州銀行は同市場の主要な参加者ではないことから、こうした大規模なマージン・コールの直接的な影響は限定的だと思われる。また、ドイツやスウェーデンなど欧州各国の政府は、電力会社をはじめとするエネルギー関連企業に対して追加証拠金に対応するための流動性を供給するなど、支援策を講じている。このため、信用事由が発生したとしても中小事業者に限定されることが予想され、欧州銀行セクターのバランスシートを大きく損なうことはないとPGIMフィクスト・インカムは考える。なお、欧州の銀行システムを俯瞰すれば、エネルギー関連企業への融資残高は全体の1.3%を占めるに過ぎない。
欧州の銀行や政府機関のデフォルトは想定されるか?
PGIMフィクスト・インカムでは想定していない。高インフレと景気後退がマイナス材料となる可能性はあるものの、足元で欧州銀行セクターは十分な資本を有しており、金利が上昇する中で収益性には改善の兆候が見られるほか、流動性についても過去最高の水準を維持している。また、欧州銀行のバランスシートにはコロナ禍に積み上げた予防的な貸倒引当金が引き続き計上されており、今後のデフォルトに対するクッションとなり得る。
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