日銀は9月17~18日の金融政策決定会合で0.25%の利上げを決定し、政策金利を1.25%とした。前回6月の利上げから3ヵ月での追加利上げとなった。利上げは事前報道等を受けてほぼ100%織り込まれていたが、市場の初期反応は、金利低下、株価上昇、円安となった。高市政権の意向を反映している可能性のある審議委員2名が利上げに反対したことに加え、市場の一部にあった連続利上げへの期待が後退したことが主な背景とみられる。
今後の焦点は、引き続き利上げペースとターミナルレートである。まず、利上げペースについては、今後、四半期に一度程度へ速まる可能性があるとみている。 決定会合公表文や展望レポートの金融政策運営方針に利上げのペースに関する記述が盛り込まれたのは、今回の利上げサイクルでは今年4月の展望レポートが最初であり、「調整のタイミングやペースについては、中東情勢の展開が我が国経済・物価に及ぼす影響を注視した上で、経済・物価の中心的な見通しが実現する確度やリスクを点検しながら検討」とされた。6月の決定会合でもこの文言は維持され、7月の展望レポートでは、「特に、基調的な物価上昇率が2%の『物価安定の目標』を超えて上振れていくリスクが顕在化し、それがその後の経済に悪影響を及ぼすことがないよう、基調的な物価上昇率を2%程度の水準で安定させていくという観点が重要」との文言が加えられた。6月の決定会合公表文で既に言及されていた「物価上振れリスク」が、7月には金融政策運営方針に明示的に組み込まれた格好だ。今回の公表文には、利上げペースのさらなる加速を直接示唆する新たな表現は見当たらない。一方、前述の「物価上振れリスク」への警戒は維持されている。企業物価指数や企業向けサービス価格指数の上昇が今後消費者物価へ波及する可能性を踏まえると、上振れリスクに対応するため、日銀は利上げペースを四半期に一度程度へ速める必要があると判断する可能性がある。
植田総裁の会見で特に印象的だったのは、「政策の局面が変化した」との発言である。総裁はその意味について、従来は基調的な物価上昇率が2%を下回るもとで、その上昇を重視した非対称なリスクマネジメントを行ってきたが、今後は基調的な物価上昇率が2%に近づく中、上振れリスクにも留意した上下対称のリスクマネジメントへ移行すると説明した。物価の上振れリスクが意識される現在の環境では、金融緩和度合いの縮小をこれまでより速いペースで進める可能性を示唆する発言と捉えられる。
米国との関係も、利上げペースを速める一つの要因になり得る。ベッセント財務長官への「忖度」というよりも、日米が実際に協調介入に踏み切ったという事実が重要だ。報道によれば協調介入は日本側からの提案とされており、政府としては少なくとも当面、再び円安が進行することは避けたいと考えている可能性が高い。米国が利上げを再開する中、国内の経済・物価情勢が許す範囲で、日銀にも追加利上げを促す方向に作用する可能性がある。その点で、今回の利上げに浅田、佐藤両審議委員が反対したことはややサプライズだった。両委員は高市総理により任命されており、今回の反対が円安リスクを政策判断上それほど重視しない姿勢を意味するのか、今後の発信を確認していく必要がある。 また、来年7月に任期を迎える高田、田村両委員の後任人事を巡って、よりハト派的な人物が任命されるとの観測が市場で生じやすくなる可能性にも留意したい。
ターミナルレートは1.75%と予想している。この水準自体への確信度が高いわけではないが、政策金利のパスとしては、来年半ばまでに0.25%刻みで複数回の利上げが行われ、その後は米国の利下げが予想される2028年に向けて、同水準が維持されると想定している。1.75~2%は、日銀が示す中立金利の推計レンジの中心付近でもある。また、高市政権が積極財政による高圧経済を志向する中で、物価がさらに上振れる見通しとならない限り、中立金利とみられる水準を明確に超えて利上げを続ける可能性は低いのではないか。 日銀の物価見通しでも、消費者物価は2026年度後半以降、2%を明確に上回る水準へ伸び率を高めた後、展望レポートの見通し期間後半、すなわち2027年度後半から2028年度にかけて2%に向けて減速する姿となっている。以上の理由から、1.75%を今回の利上げサイクル、すなわちマイナス金利解除から続く金融政策正常化の一旦の到達点と予想している。ただし、その次の政策変更が利下げになるとの確信度も高くない。来年度から本格化する高市政権の積極財政が奏功し、日本の潜在成長率が上昇すれば、それに伴って金利の均衡水準も上昇する可能性がある。潜在成長率が高まらない場合でも、AI関連投資が想定以上に加速するなどしてGDPギャップのプラス幅が拡大し、2%を超える物価上昇率が定着する蓋然性が高まれば、中立金利を上回る水準まで政策金利を引き上げる必要が生じ得る。
今後の国債市場は、当面もみ合いでの推移を予想する。企業業績はこれまでのところ堅調であり、来年の春闘でも相応の賃上げが見込まれる。財政面では、日本成長戦略や来年度予算の概算要求を通じて積極財政の骨格が明らかになってきた一方、防衛費の増額幅、増額ペース、財源を巡る不確実性が残っている。米連邦準備制度理事会(FRB)や欧州中央銀行(ECB)の利上げ姿勢も債券市場の重石となろう。ただし、こうした材料の相当部分は既に市場に織り込まれている可能性がある。市場は1年後に2%程度、2年後には2.4%程度への政策金利上昇を織り込んでいる。長期金利3%についても、今後予想される3%程度の名目GDP成長率と同程度であり、水準そのものに大きな違和感はない。
もっとも、リスクは多い。中東情勢では、米国、イラン双方が戦争の長期化も辞さない姿勢を示すことで相手の譲歩を引き出そうとしているようにみえる。膠着状態が長期化すれば、化石燃料価格の高止まりを通じて貿易収支が悪化し、円安圧力となる可能性がある。円建て原油価格は2022年の高値と同水準にある。明らかに供給要因による物価上昇ではあるものの、物価への二次的波及が生じやすくなっている現在の経済環境では、日銀が追加利上げによって対応する可能性がある。AI関連投資需要は中長期的には堅調にみえるが、リスクがないわけではない。AIの安全性を巡って開発抑制を求める議論が強まれば、投資需要にも影響が及ぶ可能性がある。また、ベッセント財務長官の発言にも注意が必要だ。同長官が言及する「市場が知らない情報」が何を指すのかは判然としない。仮に日銀の利上げペース加速であれば、市場は既に相当程度織り込んでいる。むしろ、公的年金の資産配分変更など、市場が十分に織り込んでいない政策要因を指している可能性にも留意したい。
日銀の今後の金融政策を考える上で、特に重要になるのが「金融環境」である。日銀はこれまで複数のモデルを用いて中立金利を推計してきたが、モデル間の推計値には依然として大きなばらつきがある。企画局は今年3月の日銀レビュー「自然利子率の動向と金融緩和度合いの評価」で、自然利子率は金融政策運営上重要な概念である一方、その推計には大きな不確実性があることから、金融緩和度合いの評価にあたっては「金融環境」を総合的に判断する必要があるとの考え方を示している。現在、日銀は金融環境を緩和的と判断している一方、基調的な物価上昇率は2026年度後半から2027年度にかけて物価安定目標と整合的な水準に達すると見込まれている。そうなれば、金融環境を緩和的に維持する必要性は薄れ、政策運営の焦点は「中立金利まであと何回利上げするか」から、「現在の政策金利が実体経済に対して緩和的なのか、引き締め的なのか」を評価することへ移っていくと考えられる。
著者
丸山 誠二、CMA、取締役投資運用本部長兼チーフ・インベストメント・オフィサー兼債券運用部長、チーフ・ファンド・マネジャー
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