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新たなレジーム化におけるインフレのボラティリティ:中央銀行と市場への影響

2026年9月10日

相次ぐ供給ショックによってインフレのボラティリティが高まっており、コロナ禍前の時代とは様相が異なっている。本レポートでは、この新たなレジームが中央銀行の政策、ひいては市場に及ぼす影響について考察する。

 

主なポイント:

  • 中央銀行は政策的な選択肢を残しておきたいと考えるだろうが、インフレ期待を安定させるためには積極的な対応を続ける必要がある。
  • 頻繁あるいは急激な政策金利の変更は市場のボラティリティを高める可能性があり、短期金利と長期金利に異なる影響を及ぼすだろう。
  • 短期金利のボラティリティ上昇とレンジ内で推移する長期金利という組み合わせは、債券投資家にとって魅力的な環境をもたらす。

新型コロナウイルスのパンデミック、ロシアによるウクライナ侵攻、最近の中東危機など、大規模かつ頻繁な供給ショックが新たなレジームとなる可能性が高いと見られる。これまで実際にそうであったように、こうした供給ショックが下振れ方向(供給減少)に偏るような場合、インフレ率の上昇とボラティリティの高まりにつながる(図表1)。これは、インフレが低位で安定していたコロナ禍前の環境とは根本的に異なる。こうした環境の変化は、中央銀行の政策運営、ひいては市場にいくつかの重要な影響をもたらす。中央銀行はインフレショックに対して機動的に対応する可能性が高く、そうすることで長期的なインフレ期待の上昇が抑制されるだろう。これに魅力的な総合利回りが相まって、幅広い債券資産への投資を支える環境が生み出されると考えられる。

政策運営に及ぼす第一の影響として、予想外のショックが相次ぐ環境では、中央銀行は政策の選択肢を維持することを重視するようになることが挙げられる。中央銀行は、現時点で判明している情報のみに基づいて今後の政策金利の見通しを示すことに一段と慎重になる一方、状況の変化に応じて政策方針を転換することに積極的になるだろう。コロナ禍後はインフレ率とそのボラティリティが大きく高まっており、中央銀行が特定の政策金利見通しを示すことは一段と困難になるだろう。

図表1:コロナ禍前と後の政策金利とインフレ率
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出所:マクロボンド、データは2026年7月時点。
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出所:マクロボンド、データは2026年7月時点。

第二の影響として、インフレ率とそのボラティリティが高い環境では、政策金利が中立に近い水準にある場合、これが実効下限制約に直面するような可能性は低くなることが挙げられる。その結果、中央銀行は、コロナ禍前の10年間に見られたような、政策金利を無期限に低位に据え置くことを示す手段としてのフォワードガイダンスの活用を避けるようになるだろう。

第三に、インフレ率がこれまで以上に目標から乖離し、そうした状況が長期にわたって持続する可能性が高い中、中央銀行はインフレ目標に対するコミットメントを示すため、積極的に行動する必要が生じる。供給ショックが一時的だと想定する場合でも、それが政策金利を調整しないことを意味するわけではない。

 

インフレのボラティリティの高まりを背景とした頻繁な政策変更

インフレ率が長期にわたって目標を上回り、それに伴ってインフレへの警戒が強まる環境下では、インフレ期待が上振れ方向に非対称に不安定化し、物価上昇ショックに対して迅速あるいは過度にインフレ期待が反応する可能性がある。中央銀行は、目標を上回るインフレ期待とインフレの定着を防ぐため、短期的なインフレ期待の上昇に対して迅速に対応すると考えられる。そうしなければ、強力かつ長期にわたる金融政策の調整が必要となる可能性がある。迅速な対応よってインフレ期待をうまく安定させることができれば、結果として金利サイクルは短期化する可能性がある。

要するに、新たなレジームでは中央銀行の政策変更が増え、それに伴ってイールドカーブの短期ゾーンのボラティリティが高まる可能性が高い。さらに、他の条件が同じであれば、短期金利のボラティリティ上昇は長期金利にも波及し、長期金利の政策金利変更に対する感応度も高まる。ただし、長期金利に影響を及ぼす別の要因であるタームプレミアムが、短期金利のボラティリティ上昇による長期金利への影響を相殺する可能性もある。

 

イールドカーブ全体への影響

特に、インフレを巡る不確実性はタームプレミアムの重要な構成要素である。インフレ抑制のために措置を講じているとして市場からの信頼性が高い中央銀行は、インフレ期待を抑制することによって長期金利にも影響を及ぼすことができる。これを踏まえ、市場に対する2つの影響が導き出される。第一に、フォワードガイダンスが示されないことで市場のボラティリティは高まる可能性が高い。第二に、1990年代半ばと同様に、短期金利のボラティリティは長期金利を上回る可能性が高い(図表2)。

図表2:短期金利と長期金利のボラティリティ
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出所:バークレイズ、データは2026年6月30日時点。
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出所:バークレイズ、データは2026年6月30日時点。

コロナ禍後の期間は、インフレショックに直面してフォワードガイダンスが放棄される中、金融政策が長期金利にどのような影響を及ぼし得るかを検証する実験の場となっている。図表3は、FRBが2022年に積極的な利上げを実施する中で、ブレークイーブン・インフレ率が急速に低下したことを示している。直近の原油ショックとそれに伴う市場のタカ派的な見方へのシフト、ケビン・ウォーシュ議長率いるFRBの新体制の始動を背景に、足元でも同様の動きが見て取れる。

図表3:政策金利とブレークイーブン・インフレ率の関係
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出所:バークレイズ、データは2026年6月30日時点。
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出所:バークレイズ、データは2026年6月30日時点。

タームプレミアムのもう一つの構成要素である債券市場の需給の不均衡も、中央銀行の金融政策と関連している。政策金利が実効下限から上昇したことに伴い、中央銀行のバランスシートは現在縮小しつつある。新たなレジームで中央銀行のバランスシートがどのようになるかはまだ分からないが、これまでの経験からは以下の点が示唆される。

第一に、「バランスシート縮小の影響は概して市場に大きな影響を及ぼさない」との理論は、実際に正しかったことが裏付けられている。このことは、量的引き締めの開始時点で想定されていたよりもバランスシートを小さくできる可能性を示唆している。

第二に、安全弁として機能するよう設計された新たな流動性供給手段は、実際に機能しつつある初期的な兆候を示しており、その一例としてイングランド銀行が比較的最近導入した短期レポ・ファシリティが挙げられる。このことは、市場がそれらの追加的な安全弁を実際に利用可能なものとして認識している限り、中央銀行がバランスシート縮小をさらに進められるとの確信を与えるだろう。

第三に、健全に機能する民主的資本主義体制における価格発見の原則は失われていない。実際、中央銀行は最後の貸し手としての役割を果たしつつ、市場での存在感を可能な限り最小限にとどめることが重要であり、市場への関与は効率的であるべきだと中央銀行自体が強調している。ウォーシュ議長が最近発表したタスクフォースの責任者にマーヴィン・キング氏、ジェレミー・スタイン氏、ラグラム・ラジャン氏が任命されたことは、こうした見方が優勢になりつつあることの表れである。

 

債券投資を支える環境

中央銀行が物価安定にコミットすると同時に、各国の債務管理当局も引き続き資金調達の効率性を重視しており、超長期国債の発行を減らす一方で、短期国債の発行を増加させている。これにより超長期国債の供給が抑えられ、長期金利も抑制される。底堅い需要に対して供給が調整されることにより良好な需給環境がもたらされ、長期金利のボラティリティは抑制されると考えられる(特に長期金利に大きな影響を及ぼすのは需給の不均衡である)。

最終的には、独立した中央銀行による物価安定へのコミットメント、効率的な債務管理、良好な需給環境が、中央銀行のバランスシート縮小による長期金利のボラティリティへの影響を上回ると予想される。これらを踏まえると、新たなレジームでは短期金利のボラティリティが高まる一方、長期金利は上昇しつつも最終的には一定のレンジ内で推移することが予想される。言い換えれば、「利回りがリターンの牽引役となる」ことを踏まえれば、債券投資にとって魅力的な環境がもたらされる。

著者

Katharine Neiss, PhD、グローバル経済副責任者兼欧州地域チーフ・エコノミスト

Guillermo Felices, PhD、グローバル・インベストメント・ストラテジスト

Peter Healy、インベストメント・アソシエイト

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