米国議会の中間選挙が目前に迫るなか、PGIMでは基本シナリオとして、民主党が上下両院で過半数を獲得する可能性が高いとみている。最終的にマクロ経済と市場に最も大きな影響を及ぼすのは、次回の債務上限を巡る対立になると考えられる。2026年のレームダック会期(選挙後から新議会の発足までの会期)中に債務上限が引き上げられなければ、2027年7-9月期に債務上限を巡る対立が起こる可能性が高い。その際、基盤が十分でない民主党の議員団は、2028年の大統領選挙と議会選挙を見据え、譲歩を引き出すためにホワイトハウスとの瀬戸際の駆け引きを積極化させるだろう。
PGIMは、今回の選挙では生活費の負担が最大の争点だとみている。ガソリン価格や食料品価格の上昇は、生活費の高騰を明確かつ身近に実感させるものであり、有権者にとって看過できない問題となっている。一部の共和党候補に前例のない規模の選挙資金が投じられている中でも、我々は、民主党による上下両院の過半数獲得を基本シナリオとしている。主要な世論調査が示すように、燃料・食料品価格の上昇、広範なインフレ圧力、借入コストの上昇などが、共和党にとって逆風になっていると我々はみている。主要な確率予測モデル、賭け市場、政治世論調査では、わずか数ヵ月前までは共和党が上院の過半数を維持すると予想していたものの、現在はいずれも民主党が上下両院で過半数を獲得すると予想している。もっとも、民主党にとって下院での過半数獲得は、上院に比べてハードルは遥かに低いと我々は考えている。上院で過半数を獲得するには、2024年の大統領選でトランプ大統領が勝利した州の多くで議席を獲得すると同時に、接戦が予想される複数の議席を維持する必要がある。
ねじれ議会を背景に、法案を成立させることが一段と難しくなるだろう。さらに、いずれかの議院で民主党が僅差で過半数を握ることになれば、過半数の支持を得るうえで民主党内左派の影響力が強まるだろう。ただし、後述するように、議会が「膠着状態」に陥ったとしても、市場に影響を与えるような波乱を数多く引き起こす可能性がある。
財政赤字は既に歴史的な高水準にあり、2026年の長期債利回り上昇の一因となっている。しかし、こうした市場の圧力にもかかわらず、財政改革を求める政治的な声は高まっていない。米政界では、いずれの党にも財政規律を重視する議員がほとんど残っていない。我々は、防衛、インフラ、生活費の上昇に応じた給付調整といった分野では超党派で一定の合意が得られるとみており、選挙後の財政赤字見通しは選挙前よりも悪化する可能性があると考えている。
民主党が下院の過半数獲得のみにとどまり、上院では過半数を獲得できなかったとしても、トランプ政権はこれまで以上に大統領令などの行政措置への依存を強める可能性が高い。これは、今後さらなる関税引き上げが行われ、平均実効関税率が再び10%台半ばまで上昇する可能性があることを意味する。また、イラン情勢の再緊迫化を皮切りに、より強硬な外交政策が打ち出される可能性もある。
両党ともにAIへの監視を強めているが、規制、安全対策、監督体制について、最終的な着地点は依然として不透明である。例えば、データセンターに対する議会共和党の見方は引き続き変化しており、選挙後には再び緩やかな規制へと方針転換する可能性もある。想定される措置は、独立した監査、安全性に関するガイドライン、環境審査など、依然として多岐にわたる。ねじれ議会の下では、規制は抑制的なものにとどまり、AI開発のペースをやや鈍化させる可能性はあるものの、その成長ストーリーを完全に妨げることはないだろう。我々は、AI関連の設備投資サイクルは、ペースを落としながらも長期にわたって続く可能性があるとみている。
民主党が下院の過半数を獲得すれば、それと同時に議会の調査権限を得ることになる。これがマクロ経済に及ぼす影響は限定的とみられるものの、特定のセクターや企業のボラティリティが高まる可能性がある。民主党は、暗号資産、賭け市場、政府高官と関係のある企業を優先的な調査対象とする意向を示している。なお、民主党が上院の過半数も獲得した場合、人事の承認権限も得ることになる。これに対して政権側は、より穏健な候補者を指名することで対応する可能性があるが、最終的には、多くのポストで上院の承認を得た正式な高官が不在となる可能性がある。
中道左派の民主党議員と中道右派の共和党議員が提案する政策により、企業に新たな課題が生まれる可能性が高い。こうした動きは前回の議会でも見られた。前回の議会では、エリザベス・ウォーレン上院議員(民主党、マサチューセッツ州)が住宅市場におけるプライベート・エクイティの役割を巡ってトランプ大統領の意見に同調したほか、バーニー・モレノ上院議員(共和党、オハイオ州)と共同で社会保障制度改革に関する記事を発表した。議会が膠着状態に陥ることで、こうした政策案の一部は進展が遅れる可能性がある一方、企業の意思決定に影響を及ぼす不確実性を生み出す可能性もある。プライベート・クレジットに関する特定の問題、住宅に関する問題、さらにはウォール街と生活費負担の問題を結び付けるあらゆるテーマが政策議論の対象になるとみられる。こうした政策の多くは、2028年の大統領選挙を見据え、生活費負担の問題で有権者の支持を獲得することを意識して進められるだろう。
我々は、現時点でFRBの独立性を巡るリスクが特に高いとは考えていない。ウォーシュFRB議長は公然たる政治的圧力にもかかわらず利上げを進めており、司法省はパウエルFRB理事に対する捜査を再開しないことを決定している。それでも、民主党が上院で過半数を獲得すれば、FRBの独立性に対する保護が強まる可能性がある。特に、今後のFRB理事の人選には、民主党の承認が必要となる。共和党が上院の過半数を維持した場合、FRBの独立性に対するトランプ大統領の攻撃に異を唱えてきた共和党穏健派の多くが議会を去ることになり、トランプ政権は段階的ながらも、FRBへの影響力をこれまで以上に強めようとする可能性がある。なお、政権はクックFRB理事に対する法的措置を引き続き進めており、FRBを巡る問題が完全に解消したわけではない点には留意すべきである。
予算案の可決には、民主党と共和党の協力が必要となる。しかし、中間選挙での勝利で民主党が勢いづく中では、協力はより難しくなる可能性が高い。民主党が僅差で過半数を獲得した場合、賛否が拮抗する局面で民主党内の極左勢力が非常に大きな影響力を持つことになる。2025年には政府機関の閉鎖が過去最長に及んだが、これは現在の政治情勢の下で、両党が交渉において譲歩しない意向であることを示す一例である。政府機関が再開すれば、閉鎖中に失われた経済活動の大部分は回復するため、一般的に経済には大きな影響を及ぼさない。ただし、経済指標を巡る不確実性やボラティリティは高まる可能性がある。
中間選挙での勝利を受け、民主党左派の勢いが増す可能性が高く、2027年の債務上限を巡る対立は、かつてない激しい攻防へと発展する可能性がある。債務上限を巡る対立は、テクニカル・デフォルト(技術的な債務不履行)や米国の信用格付の引き下げ、市場ボラティリティの高まりなどのリスクにつながる。我々の推計では、次のXデー(政府の資金繰りが尽き、債務の支払いを履行できなくなる期日)は、2027年の夏の半ばから後半に到来する可能性が高い。
著者
Daleep Singh、副会長 兼 チーフ・グローバル・エコノミスト、PGIMクレジット
Robert Sockin、米国チーフ・エコノミスト、PGIMクレジット
James Sonne、副会長 兼 ガバメント・アフェアーズ責任者、PGIM
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