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日銀の政策を巡る課題について考察する

2026年2月18日

数十年にわたる超緩和的な金融政策を経て、日本銀行(BoJ)は経済の回復を背景に金融政策を段階的に正常化しつつある。足元で政策金利は1995年以来の高水準にあり、積極財政を掲げる高市首相率いる自民党が最近の衆議院選挙で大勝する中、市場はさらなる利上げを織り込みつつある。

一方、足元で日本円と長期金利は圧力に晒されており、金融政策と財政政策の適切な組み合わせに関して大きな懸念が生じている。BoJはより積極的な金融正常化を推し進めるのだろうか?それとも、債務残高対GDP比が200%を大きく上回る日本において、政治的な要因と市場の反応が相俟って政府支出は抑制されるのだろうか?

こうした疑問に対し、本レポートでは次の側面から考察する。

  • 日本の財政拡大余地
  • 国内に焦点を当てた財政刺激策の必要性
  • 今後、BoJは政策の道筋をどのように調整し得るか
  • 市場の再評価をもたらし得るリスクとは
 
日本の財政は見かけよりも好ましい状況にある

積極財政を掲げる高市首相率いる自民党が2月8日に実施された衆議院選挙で大勝したことは、日本が財政主導の政策運営を転換させる意向がないことを示唆している。とは言え、次の要因を踏まえると、日本における追加的な財政刺激策の実施は、見かけよりも好ましいスタート地点に立っている可能性がある。

  • 日本の債務残高対GDP比は他の先進国を大きく上回る水準にあるものの、他の主要国とは対照的に近年では低下傾向にある(図表1)1
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  • 堅調な名目GDP成長率の伸びを背景に、税収は上振れしている。さらに、国際通貨基金(IMF)の推計によれば、日本の財政見通しは良好であり、「財政赤字を対GDP比3%以内に抑える」という国際的な基準と比較しても、相対的に抑制された水準にある(図表2)。
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  • 日本においては、財政支出が増加するとの思惑によって、金利上昇、財政支援が必要となるようなBoJのバランスシートの損失拡大、ひいては財政状況の悪化がもたらされるとの懸念が高まる可能性は低いと見られる。2022年に英国でミニ予算案が発表された際にはこうした状況が引き起こされたが、BoJは2015年以降、剰余金を積み上げることによるバッファーを構築することで、金融政策の正常化プロセスに備えてきた。

さらに、アベノミクス下で10年以上にわたって供給面での改革が進んだこと、および米国の相互関税によって日本の輸出主導型成長モデルが悪影響を受けていることを踏まえると、内需を刺激する政策への転換には一定の説得力がある2。日本は、労働参加率(例えば、女性の労働参加率は足元で米国を上回っている)、民間投資、生産性などの供給面の指標が相対的に良好であり、公共投資および家計への的を絞った支援が内需主導型の成長モメンタムを支える可能性があることを示唆している。

とは言え、市場の反応によって、高市政権による「責任ある積極財政」は抑制的な水準にとどまる可能性がある。

 

金融政策の正常化

財政政策のさらなる拡大が見込まれる環境下では、BoJのよりタカ派的なスタンスが、円安のさらなる進行や長期金利の上昇に関するリスクを緩和する上で有効となるだろう。

BoJによる現在の金融政策の段階的な正常化は、堅実な財政状況を前提としている。こうした中、半年ごとに25bpsのペースで利上げを実施する場合、政策金利がBoJの想定する中立水準の中央値に到達するまでには2年を要する(図表3)。しかし、足元の長期国債利回りのボラティリティ上昇や円安基調は、BoJの利上げペースは遅すぎる可能性があるとの見方を示唆している。

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現時点において、BoJが半年ごとの利上げペースに固執すべき明確な理由は見当たらない。金利上昇に伴う金融安定リスクは顕在化しておらず、日本の実体経済は相対的に金利上昇の大きな影響を受けることなく、投資、消費支出、雇用市場は驚くべき底堅さを示している。むしろ、足元でBoJの政策委員会は、金融環境の過度な引き締まりではなく、過度に緩和的すぎることで金融安定リスクが生じる可能性があることを指摘している。

とは言え、現在の日本は、コロナ禍後に米連邦準備制度理事会(FRB)や欧州中央銀行(ECB)の政策が後手に回った状況が再現されている訳ではない。日本の総合インフレ率は一貫して2%目標を上回っているものの、期待インフレ率(ブレーク・イーブン・インフレ率)は依然として2%に達しておらず、基調的なインフレ指標は引き続き2%を下回る水準で推移している(図表4)。

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BoJは、労働市場が逼迫する中でも経済拡大が続くことで、賃金と物価のスパイラル的な上昇によって持続的に2%のインフレ目標が達成されると見込んでいる。よって、財政政策がより拡張的となる状況を踏まえると、例えば4~5ヵ月ごとなど、BoJは金融政策の道筋を微調整して利上げペースをやや加速させることが適切であろう。ただし、マクロ経済情勢は、中央銀行の政策が大きく後手に回っており、現時点で連続利上げや25bps超の利上げが正当化される状況にあることを示唆していない。

 

政策ミックスの微調整が基本シナリオ

引き続き金融政策の段階的な正常化を進めるべきだが、利上げに関してはややペースを加速させる必要があると我々は考えている。

したがって、足元の市場動向の一部は、財務状況の悪化を懸念する報道に対する過剰反応であると我々は見ており、目標を上回るインフレ率はBoJの政策が足元で後手に回っていることを示唆するものではないと考えている。しかしながら、日本国債の発行が増加する中でBoJがバランスシートの縮小を続ける(図表5)につれ、市場のボラティリティは高止まりする可能性が高く、他の市場参加者の役割がこれまで以上に重要となる。発行増が見込まれる環境下においては、当然ながら債券の適正価格を巡る圧力が高まる。その意味で、現在は政策調整を行う理想的なタイミングにあるとは言えず、市場のボラティリティをさらに高める潜在的なリスクを孕んでいる。

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市場の再評価をもたらし得るリスク

我々の楽観的な基本シナリオには、次のような市場の再評価を引き起こし得る現実的なリスクが伴う。

  • 例えばAIを背景とした生産性向上などによるBoJによるマクロ経済見通しの再評価。これには、中立金利のレンジ上限の見直しや、それに向けた検討の開始などが含まれる。
  • 中央銀行の独立性が損なわれる兆候。これには、高市首相による金利上昇に対する不満の表明や、政治的な思惑を背景に“超ハト派”の人物を政策委員会に任命することなどが含まれる。
  • 米国経済の過熱など、円安をもたらす外部要因。こうした状況下では、日本の現行の財政および金融政策はより不適切となり、利上げ、あるいは最近数週間にわたる円安に対する懸念の表明などの口先介入が正当化されるだろう。
  • 債券の適正価格を巡るボラティリティの高まりにより金融市場が混乱し、これによって一時的な流動性の問題が発生。これに対処するために、BoJは最後の貸し手として市場に介入する必要が生じる。

 

政策の微調整

結論として、我々は、内需の刺激を目的とした財政拡大には一定の余地があると見ている。BoJの政策は足元で後手に回っているとは見ていないものの、国債市場におけるBoJの存在感が後退する中、金融政策の調整が必要となる可能性が高い。これにより、新たな市場参加者が国債市場に参入する必要が生じ、適正な債券価格の発見メカニズムは新たな圧力に晒される。

よって、我々は楽観的な見通しを基本シナリオとしつつも、金融市場のボラティリティは高止まりすると見込んでいる。こうしたボラティリティが市場の混乱につながる可能性のあるリスクとして、日本のマクロ経済見通しの大幅な再評価、中央銀行の独立性が損なわれる兆候、米国経済の過熱の3つに留意する必要があると考える。

 

著者

Katharine Neiss、PhD、グローバル経済副責任者兼欧州地域チーフ・エコノミスト

丸山 誠二、CMA、取締役投資運用本部長兼チーフ・インベストメント・オフィサー兼債券運用部長、チーフ・ファンド・マネジャー

 

1. 図表1は一般政府債務。日本政府が保有する資産を考慮すると純債務は低くなる。

2. アベノミクスとは、安倍晋三元首相が推進した経済政策。金融緩和、柔軟な財政政策、構造改革という「三本の矢」によって構成される。

PGIMJ126763 5225052-20260217