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CLOシニア・トランシェの流動性:唯一無二の存在

2026年3月23日

証券化商品に特有な構造的および需給特性の恩恵を受けるCLOシニア・トランシェは、債券市場でも流動性の高い資産の1つとなっている。本レポートでは、様々な市場環境においてポートフォリオの流動性向上を目指す投資家にとって、CLOシニア・トランシェが非常に有用なツールとなり得る背景について概説する。これには以下が含まれる。

  • CLOシニア・トランシェの安定的かつ底堅い流通市場を支える要因
  • 広範な市場の混乱期に、CLOシニア・トランシェはしばしば市場動向とは異なる動きを示すこと
  • CLOシニア・トランシェ固有の低ボラティリティと低リスク性を支える構造的なプロテクション
  • あらゆる市場環境におけるCLOシニア・トランシェのキャッシュフローを保護する流動性テスト
 

特に最も重要な局面において、安定的かつ底堅い動きを示す流通市場

数多くのグローバルなマーケットメーカー(主要な取引ディーラー)の存在に支えられ、AAA格およびAA格のCLOシニア・トランシェは、どのような市場環境にあっても堅調な流通市場での取引量を維持してきた。それゆえ、CLOシニア・トランシェは、特に市場がストレスに晒される局面においては重要な流動性の供給源として機能することが多く、取引活動が増加する傾向にある(図表1)。これは、CLOシニア・トランシェの流動性の高さを浮き彫りにするものである。

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2020年の新型コロナウイルス感染拡大による市場の混乱期には、債券市場の多くが実質的に取引停止状態となる中、米国AAA格CLOは活発な取引が継続され、透明性のある市場評価額で容易に投資家が売却可能な、数少ない資産の1つとなった。同様の動きは米地銀危機、さらには米国による相互関税発表によって引き起こされた2025年前半の市場の混乱時にも見られた。欧州AA格CLOは、2022年に英国で発生した債務連動型運用(LDI)危機において同様に試される展開となったが、その際にもボラティリティの高い市場環境において信頼できる流動性の供給源となった。加えて、過去10年間にわたり、CLOシニア・トランシェは市場の混乱期において絶対値・相対値いずれの観点でも価格変動が抑制される傾向が確認されている(図表2)。

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最近の事例に目を向けると、2025年4月に発表された相互関税に伴う広範な市場のボラティリティ上昇以前では、クレジットカーブがフラットな状態にある中、CLOトランシェの多くでスプレッドは歴史的にタイトな水準で取引されていた。4月に関税を巡る懸念が現実のものとなると、スプレッドは拡大し、クレジットカーブはスティープ化した。 こうした中でもAAA格CLOは再び最も底堅い動きを見せ、格付下位のトランシェをアウトパフォームした。実際、AAA格CLOの信用リスクは極めて限定的であることから、このセグメントのスプレッド拡大は主に需給要因によるものであり、流動性を求める投資家がこの資産クラスに目を向けた結果であった。

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これらのストレスに晒された市場環境を乗り切ってきたことで、CLOシニア・トランシェは、リスク調整後で上乗せ利回りを提供しつつ流動性の高い債券商品によってポートフォリオの一部を補完したいと考えている運用会社から、引き続き大きな関心を集めている。一方、CLO ETFは、1兆米ドルを上回るCLO市場全体のわずか3%程度を占めるに過ぎないものの、近年著しい成長を続けている(図表4)。依然として成長の初期段階にあるものの、CLO ETFによってCLOシニア・トランシェの投資家基盤にはさらなる拡大が見込まれる。

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債券市場の流動性に関する指標の基礎知識

TRACE:世界金融危機後、米国の規制当局は”Trade Reporting and Compliance Engine(TRACE)”と呼ばれるシステムを導入した。これは、CLOの各トランシェを含め、対象となる米国債券の店頭取引を報告する金融業規制機構(FINRA)が運営するシステムである。ディーラーを含めたFINRAに登録された市場参加者は、対象となる米国登録債券の実際の取引データをFINRAに報告することが義務付けられている。

BWIC:BWIC(入札売却)は、リストに掲載されたCLOトランシェなどの金融商品について、売り手が投資家から買い入札を募るケースを指す。ただし、BWICリストに掲載された商品が必ずしも取引に至る訳ではない。取引が成立し、そのCLOトランシェが米国登録証券であり、取引当事者の少なくとも一方がFINRAの規制対象である場合、その取引はTRACEに報告される。よって、BWIC活動に関する情報は流通市場全体の取引量を示唆する指標にはなるが、実際の取引活動を反映したものではない。一般的に、市場のボラティリティが高まる局面では、売り手がより良好な市場環境を待って様子見姿勢を取る、あるいは匿名性や店頭市場でより低い取引コストを選好する傾向があることからBWIC活動は減少する。

 

実際にどの程度の取引量があるのか

昨年、米国では2,300億米ドル以上が流通市場で取引された。これは米国CLO市場全体の20%以上に相当する。さらに、米国の新規発行市場での発行額はグロスで5,440億米ドルを上回り、新規発行市場と流通市場を合わせると1日当たり30億米ドル超の取引量があったことになる。

欧州市場についてはTRACEデータが入手できないものの、欧州CLOのBWICが流通市場の取引量を示す指標となる。我々は、BWICのうち約25%が実際の取引に至ると見積もっており、これに基づくと2025年の欧州の流通市場における取引量は約650億ユーロと考えられる。これは、欧州CLO市場全体の約25%が流通市場で取引されたことを意味する。こうした流通市場での取引量と欧州CLO新規発行市場における1,250億ユーロの発行を合わせると、1日あたりの取引量は約7.5億ユーロに達する(月次の新規発行市場および流通市場での取引量の内訳は図表5を参照)。

このように、米国および欧州における取引量が大きいことは、グローバルなCLO市場の厚みを浮き彫りにするものであり、CLOは流動性の限定的なバイ・アンド・ホールド投資(資産を買い持ちしたまま長期にわたって保有し続ける投資手法)とはかけ離れたものであることを示している。むしろ、複数の市場サイクルにわたって売買が継続されていることは、CLO投資家にとっての十分な流動性を示している。

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あらゆる市場環境において流動性を確保する仕組み

最も流動性の高い債券商品の1つであるCLOシニア・トランシェは、歴史的にほぼ全ての市場環境において取引可能な状況が維持されてきたが、これは1つには資本構造上の高い優先弁済順位と強固な構造的プロテクションによるものである。CLOにおける重要な安全装置の1つとして超過担保(OC)テストが挙げられ、これはCLO債務残高に対する裏付資産の比率を定期的に評価し、構造上十分な裏付資産があることを確実にするためのものである。ローン・プールにおいてデフォルトや格下げといったストレスが発生すると、この比率が要求水準を下回る可能性が出てくる。

このような状況が発生する場合、通常であれば下位トランシェに振り向けられるだろうキャッシュが、代わりに流用(または「凍結」)されて、シニア・トランシェの返済に充てられる。この、ストレスに晒された局面においてシニア・トランシェの投資家にキャッシュを還付する自己修復メカニズムにより、CLOシニア・トランシェの流動性とプロテクション機能はともに強化されている(OCテストの例については図表6を参照)。

ポートフォリオの流動性向上という利点に加え、CLOシニア・トランシェはリスク調整後リターンの期待を高め、長期にわたるポートフォリオの信用の質の維持あるいは改善を促進させることができる。過去10年以上にわたり、CLOの信用格付は、特にシニア・トランシェにおいて、信用サイクルや広範な市場の混乱、マクロ経済イベントを通じて堅調さを維持してきた。

重要なのは、こうした特性は全ての債券保有者に恩恵をもたらすとはいえ、歴史的に見ると、市場がストレスに晒された状況下において元本が100米ドル(額面価格)で返済されるAAA格のCLOこそが、最も恩恵を受けてきたことである。トランシェが下位になるにつれ、この恩恵は急速に薄れ、その結果として流動性の性質は異なるものとなる。よって、シニア・トランシェの流動性は非常に高い一方で、メザニン・トランシェの流動性はこれとは状況が異なる。

CLOシニア・トランシェは、構造的なプロテクション機能、流通市場における安定した流動性、ポートフォリオにもたらす恩恵により、PGIM の債券ポートフォリオでは複数の市場サイクルにわたり一般的な投資対象となってきた。PGIMは、顧客ポートフォリオにおけるCLOシニア・トランシェ運用の実績を20年近く有している。現在、PGIMではCLO投資に対する確固たる共通認識が全社的に広がっており、多くのオーダーメイド型およびマルチセクター戦略において、CLOシニア・トランシェに対する戦略的な資金配分が確立している。

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著者

Edwin Wilches、CFA、証券化商品共同責任者

Connor Byrnes、証券化商品シニア・ポートフォリオ・マネージャー

Loren Sageser、証券化商品ポートフォリオ・スペシャリスト

PGIMJ127487 5306443-20260317