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「国内金利・債券市場の見通し」セミナーのサマリーレポート

2026年5月8日

PGIMジャパンは2026年4月7日、「国内金利・債券市場の見通し」と題したセミナーを開催いたしました。本レポートでは、このセミナーのポイントについて、その概要を紹介いたします。

 

開催日時:2026年4月7日(火)

開催場所:ザ・キャピトルホテル東急 2階 「桜」

 

第一部「高市政権下の財政論点と日銀政策:長期金利はどこへ」

PGIMジャパン 債券運用部 シニア・ファンド・マネジャー 福永 顕人

第二部:高市政権下での国内クレジット市場:2026年の行方

PGIMジャパン 債券運用部 シニア・ファンド・マネジャー 室伏 茂

第三部:国内債券コアエクストラ戦略のご紹介

PGIMジャパン 取締役投資運用本部長兼チーフ・インベストメント・オフィサー兼債券運用部長 丸山 誠二

 

 

第一部:高市政権下の財政論点と日銀政策:長期金利はどこへ

 

原油価格の論点は「上昇の幅」よりも「高止まりする期間」

足元のイラン情勢と、それに伴うエネルギー価格の上昇が日本経済や日銀の今後の政策運営に及ぼす影響については、エネルギー価格が瞬間的にどのような水準まで上昇するかではなく、むしろ高水準のエネルギー価格がどれほどの期間にわたって継続するかという点によって今後の影響が大きく左右されると考えます。また、紛争の発生直後には、市場ではエネルギー価格の急騰や地政学リスクの大幅な高まりを強く意識した反応が見られましたが、足元ではエネルギー価格がさらに大きく上昇するというシナリオよりも、現在の水準近辺で高止まりする期間が当初の想定より長引く可能性が高いとのシナリオが意識されているように見られます。こうした環境下では、日本経済に一定の物価押し上げ圧力や景気下押し圧力がかかるものの、景気後退に繋がるほどの影響は想定されにくいと見ています。

また、重要な点として、エネルギー価格の上昇が企業収益や家計に与える影響は直ちに賃金動向を大きく変えるほどではないと考えます。物価は押し上げられるものの、それが春闘を中心とした賃上げの流れを根本から崩す可能性は低く、半年に一度程度確認されてきた賃金上昇のサイクルは維持される公算が大きいでしょう。

 

エネルギー価格上昇の影響は緩やかだが、無視できるものではない

エネルギー価格上昇が日本経済に与える影響については、日銀が公表しているマクロ経済モデルに基づく分析があり、エネルギー価格が一時的ではなく持続的に高止まりした場合、GDP成長率には時間をかけて下押し圧力が加わる一方で、消費者物価指数(CPI)には一定の押し上げ圧力が生じることが示されています。一方で、近年の日本経済は、長年続いたデフレマインドから脱却しつつあり、物価変動が経済主体の行動に与える影響は過去のモデル推計よりも大きくなっている可能性があります。そのため、エネルギー価格上昇が物価高を通じて実体経済に与える影響については、引き続き注意深く見極めていく必要があります。

今回のエネルギー価格の上昇は「一時的なショック」ではなく、「新たな輸送・調達手段の再構築を前提としたニューノーマル」として認識されつつあるという点が重要であり、輸送ルートの変更やコスト構造の変化が定着することで、市場は徐々に原油高を織り込み、急激な不確実性はむしろ低下していく可能性があります。

 

日銀の利上げ見通し:最も重視するのは賃金動向

金融政策の判断において、日銀が最も重視するのは物価そのものではなく、賃金上昇を伴った物価上昇が持続するかどうかですが、日本では賃金データが必ずしもタイムリーかつ明確に把握できない構造的な問題があります。米国では雇用統計などを通じて賃金動向を継続的に確認できるのに対し、日本では春闘が実質的に賃金上昇を確認する最も重要な機会となっており、日銀は春闘の結果を確認しながら、年に2回程度のペースで利上げ判断を行ってきました。足元では人手不足が構造的な問題として定着しており、仮に景気が一時的に減速しても、雇用環境が急速に悪化する可能性は低く、企業の収益力が大きく損なわれる局面は想定しにくいと考えます。つまり、エネルギー価格が一定程度にわたって高止まりしたとしても、春闘のモメンタムが失われる可能性は限定的であり、日銀は金融政策正常化を段階的に進める余地を維持できるでしょう。

次回の利上げ時期は4月または6月、その後も年2回程度の緩やかな利上げペースが継続する可能性が高いと考えます。つまり、今後12ヵ月程度で政策金利は1.25%前後まで引き上げられている可能性があります。一方、長期金利については、既に一定程度の利上げが市場に織り込まれており、今後は短期金利主導でイールドカーブがフラット化する展開が想定されています。仮に利上げが想定以上に進んだ場合でも、その水準は為替や都市部不動産市場のトレンドを大きく変えるほどではないでしょう。

 

財政運営の転換が国債需給の見方を変えつつある

財政面では、政府が財政運営の目標を見直し、単年度のプライマリーバランス黒字化ではなく、債務GDP比率の安定・低下を重視する方針へと転換した点が大きな論点となっています。これは、名目成長率が金利を上回る環境下では、一定程度の財政赤字を許容しつつも、債務比率を抑制できるという考え方です。また、この方針転換に加え、国債発行の年限構成が変化している点も重要です。足元では中長期ゾーンの発行増加ペースが鈍化しており、結果として超長期国債の需給環境は過去と比べて改善しつつあることを踏まえ、これまでは財政懸念が高まる局面では超長期ゾーンが売られやすかったものの、今後は必ずしも同じ反応が繰り返されない可能性があります。こうした需給構造の変化は、円債市場を考える上での重要な転換点になるでしょう。

 

第二部:高市政権下での国内クレジット市場:2026年の行方

 

日本企業は高い収益力を維持

現在の日本企業の業績動向について、法人企業統計などによると日本企業の利益水準はコロナ禍前を上回る水準まで回復しており、その後も堅調な推移を続けています。また、関税引き上げに伴って2025年にはビジネス環境の不確実性が高まりましたが、その中でも全体的に増益が確保できています。

近年では、単に企業の利益水準が高いというだけではなく「稼ぎ方」にも変化が見られ、企業は価格転嫁を進めると同時にコスト管理を徹底するとともに、事業ポートフォリオの見直しも継続的に行っており、多少の景気変動があっても、利益を安定的に確保できる体質へと変化してきています。2026年度に増益が期待されるセクターとして化学素材、電機・精密、輸送用機器、機械、銀行などが挙げられます。その背景として、AIやデータセンター関連需要、DXや脱炭素に向けた設備投資の拡大、さらには金利正常化による銀行の利ざや改善といった構造的要因があります。こうした分野は循環的な回復というよりも、社会構造の変化を背景とした成長が見込まれ、比較的確度の高い収益が期待できる局面にあります。

 

エネルギー価格上昇は懸念材料だが、全体を揺るがす水準ではない

製造業のエネルギー消費構成を見ると、石油が依然として一定の比率を占めており、中東からの輸入依存度も高いという点を踏まえると、日本企業はエネルギー価格の上昇に対して脆弱に見えるものの、PGIMでは企業収益への影響は限定的と見ています。過去にエネルギー価格が一定程度上昇した場合でも、企業全体としては増益基調が維持されていたほか、為替が円安方向に振れることによって輸出関連企業の収益が下支えされる効果も期待できるためです。また、日本は原油備蓄を十分に確保しており、短期的な供給途絶に対する耐性が高く、ナフサなどの石油関連製品についても、国内調達や複数の輸入先を活用する余地があり、急激な不足が企業業績を一気に悪化させる可能性は高くないと考えます。

 

日本企業の財務体質は過去と比べて強化されている

企業業績に加え、財務体質の面でも日本企業は大きく改善しています。売上高経常利益率は長期的に見て上昇傾向にあり、企業は利益とキャッシュを確保できる経営体質を構築しつつあります。一方、設備投資については、金額ベースでは増加しているものの、キャッシュフロー対比で見ると依然として抑制された水準にとどまっています。つまり、企業は十分なキャッシュフローを生み出しながらも、過度にレバレッジを高めることなく余力を残した状態で投資を進めており、これはクレジット投資の観点から見ても極めてポジティブな要素になっていると考えています。

 

高市政権の政策は設備投資を下支えする

高市政権の総合経済対策は供給サイドへの働きかけを強く意識した内容であり、成長投資を通じて経済の基盤を強化する構成となっています。その中でAI、量子技術、造船、バイオなどの重点分野を明確に定めた上で投資を後押ししています。つまり、単なる景気対策ではなく、国内に産業・技術基盤を維持・強化することを目的とした政策であり、企業にとっては中長期的な設備投資を行う上での安心材料になるでしょう。これに加え、税制優遇や補助金政策も設備投資に対する支援材料となって企業の投資意欲が後押しされ、設備投資の増加が受注や売上の拡大につながります。PGIMでは企業の信用力が徐々に底上げされていくという好循環を期待しています。

 

クレジット・サイクルの現在地と投資戦略

クレジット・サイクルの観点では、日本は回復局面の後半から次の段階へ移行しつつある状況にあり、企業利益は堅調、借入や投資を増やせる余力があり、これを政策が後押ししている段階にあります。スプレッドは足元で既に縮小しているとは言え、今後も安定推移する可能性が高いでしょう。日本の金融システムは強固であり、仮に外部ショックが発生したとしても、クレジット・サイクルは急激に悪化しにくい構造を持っています。投資戦略としては、短中期の劣後債に注目しています。長期ゾーンはイベントリスクの影響を受けやすいため、年限をやや抑えることでリスクを管理しつつ、相対的に厚いスプレッドからキャリーやロールダウンによるリターンを狙う戦略が有効と考えます。

 

第三部:国内債券コアエクストラ戦略のご紹介

 

国内債券コア戦略をベースに、クレジットリスクを追加することで高いリターンを目指す

PGIMは「国内債券コアエクストラ戦略」を2025年に運用開始しました。同戦略は、既存の国内債券コア戦略と同一の運用プロセスを基盤としつつ、クレジットリスクを追加することで、より高い超過収益の獲得を目指す戦略です。コア戦略が金利とクレジットの双方からバランスよく超過収益を狙うのに対し、エクストラ戦略ではクレジット戦略の比重を高めることで、収益目標の引き上げを図っています。既存の運用哲学やプロセスを維持したまま収益源泉の組み合わせを調整しており、これによってリスク管理の枠組みをベースに投資家のリスク許容度に応じた選択肢を提供する設計となっています。

 

金利戦略ではイールドカーブの「歪み」、クレジット戦略ではボトムアップ分析に基づく定性判断に着目

同戦略の金利戦略では、定量モデルによる相対価値に焦点を当てており、市場参加者の投資目的や投資上の制約の多様性に起因するイールドカーブの「歪み」を、理論値からの乖離として定量的に捉えることで、超過収益の獲得を目指しています。

一方でクレジット戦略では、ボトムアップ分析に基づく銘柄ごとの定性判断に焦点を当てています。債券インデックスの構成比は発行体の都合で決まりやすく、必ずしも効率的とは言えません。そのため、事業債や円建て外債、劣後債など、相対的にスプレッドが厚いオフベンチマーク領域に投資機会が存在すると考えています。日本企業はデフォルト率が低く、信用力が高いにもかかわらず、一定のリスク・プレミアムが上乗せされているため、徹底したボトムアップ分析によって魅力的な投資機会を見出せると考えます。

 

戦略面およびプロセス面での分散

戦略面およびプロセス面での分散も特徴の一つです。戦略面に関しては、市場ボラティリティの上昇局面では金利戦略、低下局面ではクレジット戦略がリターンに寄与する傾向があります。プロセス面に関しては、金利戦略は定量分析、クレジット戦略は定性分析をベースとしており、投資判断の重複リスクが低減されていると考えています。リスク管理においても、リスクバジェットの考え方が導入されており、目標達成に必要な適切なリスク量を設定した上で、分散を促して偏りを回避していることも強みと言えます。

 

戦略の実績と投資家への示唆

「国内債券コアエクストラ戦略」については、長期にわたって安定したパフォーマンスを達成している「国内債券コア戦略」にクレジットリスクを追加することで、よりリスク許容度の高い投資家にとって魅力的な商品になると考え設計しました。運用開始からまだ日が浅いものの、これまでのところ概ね設計通りのパフォーマンスを示しており、金利とクレジットの分散効果を活かしつつ、リスク調整後リターンの向上を目指す戦略として、今後の円債運用における一つの選択肢となり得ると考えています。

PGIMJ128860 5437254-20260430