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プライベート・クレジット投資の解約制限に直面する投資家

2026年5月1日

過去10年間にわたり、プライベート・クレジット市場は、活発な資金調達、大規模な資金の流入、安定したリターンを享受してきたが、足元では緩やかに停滞する中で、懸念の方は急激に高まり、ネガティブなヘッドラインの報道が相次いでいる。その結果、プライベート・クレジット市場参加者が運用し、セミリキッド型(限定的な流動性を提供する)プライベート・クレジット商品の中には、ファンド契約上の制限を上回る解約請求が寄せられているものが出てきており、これに対して各社で様々な対応が取られるとともに、投資家の間では新たな不確実性が芽生えている。

とは言うものの、我々は過去80年近くにわたってプライベート・クレジットを運用する中で、数多くの信用サイクルを経験してきている。最近の事象に対し、我々は以下のような見方をしている。

  • 足元で業界を揺るがしている要因により、今後、業界はより健全な方向に向かう可能性が高い。
  • 投資の基本原則が見過ごされたため、ポートフォリオの過度な集中とそれに伴う解約請求がもたらされた。
  • こうした解約請求に対する足元の対応状況と、その中でも特に重要な対応事例。
 

歓迎すべき変化

真のミドルマーケット企業を対象とした機関投資家向けダイレクト・レンディング市場の進化により、21世紀の資金調達手法は大きく様変わりした。こうした融資が銀行から様々な機関投資家に移行するのに伴い、銀行融資(その一部は、銀行のバランスシート上で暗黙のうちに約10倍のレバレッジがかけられていた)は機関投資家による融資へと転換され、これらの平均レバレッジは約0.7倍であることから、銀行システム内のネットのレバレッジ比率も低下することになった1。いかなる定義においても、このことはリスクの分散とシステミック・リスクの低減という点で成功だったと言える。

その過程で、投資家や一部の運用マネジャーは大きな恩恵を受けてきたが、主な背景には、経済が過去20年近くにわたり、典型的で広範な信用サイクルを回避してきたことが挙げられる2。このため、そうでなければ想定されたであろう水準と比べて損失はより低水準に抑えられ、リターンはより高い水準で推移してきた。

こうした理想的な環境が組み合わさった状況も、今後は変化が見込まれる。こうした変化が目前に迫っているのだとしたら、我々はこれをプライベート・クレジット投資サイクルにおいて想定され得る歓迎すべき局面であると捉える。この変化の到来により、厳格な審査基準を有する運用マネジャーはより良好なリターンを創出し、さらなる投資資金を呼び込む可能性もあるだろう。一方、新規資金を調達できず、主要な人材に対して十分な報酬を支払うことができない、問題を抱えた運用マネジャーは市場から撤退する可能性が高く、結果としてプライベート・クレジット市場のエコシステム全体に恩恵をもたらすだろう。

 

基本原則を破ることの代償

ダイレクト・レンディングは一部の機関投資家や世界の富裕層の投資家にとって比較的新しい投資手法かもしれないが、その目新しさによって投資の基本原則が否定されるわけではない。今後も引き続き信用サイクルは繰り返され、一定のリスク水準あたりの元本損失を最小限に抑えようとするクレジット戦略は、概して良好なパフォーマンスを示すだろう。

ポートフォリオの20%、30%、あるいはそれ以上を、例えばエンタープライズ・ソフトウェアなどの単一の業界に集中させている運用マネジャーは、投資における真の「フリーランチ」である分散投資を無視していると言える。審査やリスク管理基準の緩みは、クレジットに焦点を当てるどのような投資戦略においても問題を引き起こす要因となる。

 

図表1:米国のBDC(ビジネス・ディベロップメント・カンパニー:中小企業や新興企業に投資する事業開発会社)ではテクノロジーおよびソフトウェア業種への集中度が高い
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出所:ピッチブックLCD、モーニングスター、S&Pグローバル、ICE BofA、モルガン・スタンレー・リサーチ、2025年12月31日現在。注記:PCはプライベート・クレジット、BSLはブロードリー・シンジケート・ローン、HYはハイイールド債券。

 

長年にわたり、エンタープライズ・ソフトウェア企業は、プライベート・エクイティ(PE)ファンドにとって収益性の高い投資対象だった。これらの企業は設備投資の必要性が低く、安定した収益基盤と高いEBITDA倍率を背景に急速に成長してきた。PEファンドはベンチャーキャピタルから既に実績が証明されているエンタープライズ・ソフトウェア企業を買収し、競合他社を吸収合併するなどしてこうした企業をさらに成長させた後に、これらをより大規模な競合他社や戦略的買い手に売却するというプロセスを何度も繰り返してきた。マルチプル法に基づいた買収時の企業価値の高さから、これら企業は名目上低い債務水準を維持することができた(例えば、企業価値に対する負債の比率は30~40%にとどまる一方、EBITDAに対する負債のマルチプルは8~10倍と高水準)。 PEスポンサーの多くはダイレクト・レンディング・プラットフォームを運営しており、投資先企業にも関与しているが、買収価格の約70%を株式資本で拠出しつつ、EBITDAの成長と安定的な企業価値マルチプルの中、より高い価格で企業を売却できると確信していた。企業価値マルチプルがやや低下したとしても、PEスポンサーは利益を上げることができると見込んでいた。では、何が問題になるのだろうか?

PE投資のエグジットは既に鈍化しており、それによってダイレクト・レンディング・ローンの実効年限が長期化していたが、その一方でAI開発の前例のないスピードと影響力によってソフトウェア企業のビジネスモデルはリスクに晒されることになった。AIの台頭が「存亡に関わるリスク」になることを予見できれば、それは後から振り返ってみれば素晴らしい判断だったと言えるのだろうが、適切なリスク管理を行うことこそが、より信頼のできる元本損失への防御策である(図表2を参照)。ソフトウェアへの集中的な投資は目新しいものではなく、現在でも広範に見られる状況にあるが、一連のネガティブな報道を受けて、投資家がダイレクト・レンディング・ビークルに対して解約請求を行ったことは当然と言える。

 

図表2:信用に関する本当の問題は集中リスクである可能性が高い
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出所:ブルームバーグ、2026年3月31日現在。

 

解約制限に注意

ここで、プライベート資産、セミリキッド型のプライベート・クレジット・ビークル、および投資家行動という3つの要素が交差する点について考察する。セミリキッド型のダイレクト・レンディング・ビークル(BDC、インターバル・ファンド、テンダー・オファー・ファンド、エバーグリーン・プライベートGP/LPファンドなど)を設定した各社は、こうしたファンドが「取り付け騒ぎ」に脆弱である点について、当初から入念な説明を行っていた。つまり、平均残存年限が約3年で流動性に乏しいダイレクト・レンディング投資と、セミリキッド型のプライベート・クレジット・ビークルとの間に内在する流動性のミスマッチは明白であり、流動性が試練の時を迎え、解約制限が問題となるのは時間の問題だった。

過去数ヵ月のイベントを改めて振り返ることは控えるが、図表3は非上場BDCにおける最近の解約請求の推移を示している。こうした解約請求が増加する中、運用マネジャーはそれぞれ異なる方法で対応してきた。ある運用マネジャーは、自身のポートフォリオ全体を対象とするローンの、流通市場での大規模な売却に成功し、その結果としてファンドの30%を償還させた。別の運用マネジャーは、自社およびパートナーのリソースを活用してBDCの約8%を償還させた。これは契約上の解約制限を3%上回る水準であった。さらに別の運用マネジャーは、解約請求を契約上の制限である5%に限定することを選択したため、流動性を求める一部の投資家は解約待ちを余儀なくされ、次の四半期における解約請求に期待せざるを得ない状況に置かれている。

 

図表3:2026年1-3月期にBDCでの解約請求が急増
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出所:ブルームバーグ、Robert A Stranger & Co、2026年3月時点。

 

我々は最後の事例が重要だと考えている。と言うのも、これこそが契約上想定されていた解約プロセスの本来の姿だからである。もし、契約上の義務を超えて流動性を提供するために特別の措置を講じた運用マネジャーだけが前例となってしまった場合、こうした状況にモラルハザードの問題が加わり、市場にとって健全とは言えない結果を招く可能性がある。

投資家がこうした規定について事前に十分に理解していれば、高い投資リターンと低い流動性のトレードオフは、長期的に見れば価値を生み出すものとなる。運用マネジャーによる解約手続きは概して透明性が高く、これには四半期毎の解約制限が5%という規定も含まれる。しかし、最近のイベントを受けて、一部の投資家は流動性とリターンのトレードオフについて以前とは異なる見方をするようになる可能性があり、その場合には、ビークルがセミリキッド型のプライベート・クレジット投資の伸びは鈍化するかもしれない。しかし、過去30年間にわたって運用資産残高の10%を超える資金流出が頻発していた変動金利ローン投信市場(図表4を参照)で適応したのと同様に、投資家は今回も適応し、より循環的な投資行動を取るようになると我々は考えている。変動金利ローン投信市場の過去の歴史は、セミリキッド型のプライベート・クレジット・ビークルで見られた最近の投資家の行動は、厳しい状況下において予想され得るものであることを示唆している。

 

図表4:変動金利型投信への循環的な資金フローのパターン(四半期毎)
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出所:モーニングスター、運用資産残高に対する割合に基づく。

 

ビンテージの魅力度はどうなる?

過去の事例を参考にすれば、2026年ビンテージはダイレクト・レンディングにとって魅力的な投資機会となる可能性がある。信用サイクルやポートフォリオ構築の誤りに対して、より保守的なスタンスへと傾くのは自然な反応である。そのため、同セクターに対する投資への新たな資金を呼び込むためには、より有利な融資条件や高いクーポンが必要になるかもしれない。しかし、ダイレクト・レンディングに対する主要な機関投資家の意欲は依然として旺盛であり、セミリキッド型のビークルにおける最近の問題によって過去10年にわたるプライベート・クレジットの成長トレンドが反転するというよりも、成長ペースの鈍化にとどまる可能性が高い。こうした潜在的な反応を踏まえると、2026年がダイレクト・レンディングにとってどの程度魅力的なビンテージになるかは今後数四半期でより明確になると考えられ、プライベート・クレジット市場への参入を検討する投資家は、その動向を間違いなく注視することになるだろう。

 

 

1. 銀行がダイレクト・レンディング業者に資金提供を行っていることを我々は認識しているが、その際に担保資産の評価額が市場価格から一定割合差し引かれる(ヘアカット)こと、および市場規模の拡大により、依然としてリスク低減がもたらされていると考えている。

 

2. 我々は、新型コロナウイルス感染拡大期は歴史的に見て典型的な信用サイクルとは見なしていない。

 

著者

John McNichols、CFA、プライベート・クレジット投資商品/戦略責任者

PGIMJ128555 5400614-20260417